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EPISODE 3:はじめてのブティックをオープン

ある日、行きつけのコーヒーハウス「フィンチ」のマスター(アーチー)がとびっきりのプランをもってやってきました。一緒に共同事業をやろうというのです。自分たちの力で何か新しいことをはじめたいと思っていたマリーたちにとっては願ってもない提案でした。マリーにはアレキサンダーと一緒に仕事ができることも魅力でした。

資金はアーチーの貯金5000ポンドとアレキサンダーが財産分けでもらった5000ポンド。きりがないくらい話し合った末、マリーが死ぬほどやってみたいと思っていたブティックを開くことに決定。おあつらえむきに、念願のキングス・ロードに地下室付きのスペースも見つかりました。ファッションからアクセサリー、帽子、変わった小物、何でもありのお店だから、名前は「バザー」。

地下は、アレキサンダーが前々からやりたいと思っていた本当にシックなジャズクラブにすることにしました。

マリーとアレキサンダーは勇んで仕入に取りかかりましたが、何と言っても、まだ20歳を過ぎたばかりの二人。若すぎることや風変わりな身なりが警戒されたのでしょう、卸屋から随分ひどい目にあったりもしました。もちろん中には例外もあって、心から応援してくれたところもありましたが。アクセサリーはアートスクールの学生たちのオリジナルデザインを集めました。

マリーにはひとつのポリシーがありました。

それは、大人のまねごとではない若い人たちのファッション、20世紀のファッションがあるべきだという考えでした。

この頃はまだ、マリー自身もデザイナーになるなんて思ってもいませんでしたから、とにかく若い人たちに合うファッションやそれに合うアクセサリーを見つけ出すことに一生懸命でした。

さて、いよいよオープンの日を迎えました。

でも、マリーたちのやり方ときたら何から何まで常識はずれ。それは彼ら自身が一番よくわかっていました。第一に値段の付け方がわからない。帳簿をつけることさえ知らない、どのくらい商品をストックすべきかなんて見当もつかない、といったありさまです。

その結果、粗利益の乗せ方をまちがえてロンドン中で一番安い値段をつけてしまったから大変。

オープン早々、商品は飛ぶように売れました。人気商品は片っ端から売り切れてしまい、店は空っぽ。

ショーウィンドウに飾る商品もありません。近くの商店や卸屋からは苦情の嵐。

10日もしないうちに、オリジナルものは1点もなくなってしまいました。その中には、マリー自身がデザインした商品もありました。たった1点だけでしたが・・・。それが、マリーがデザイナーとしてはばたく小さなきっかけになったのかもしれません。

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