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EPISODE 12:J.C.ペニー社との契約

ある日、アメリカ最大のチェーン店J.C.ペニー社のバイヤーから1本の電話がかかってきました。

彼はペニー社で企画しているヨーロッパ特集企画のために特別に命じられて、ヨーロッパのありとあらゆるものを、この6ヶ月もの間、見て歩いていたのです。

店にやってきた彼は、マリーの作品を見るやいなや、とても興奮して、すぐにアメリカ本社に電話を入れました。「ごちゃまぜのヨーロッパ企画なんてやめにして、マリー1人に絞り込みたい」と。本社の承諾を取りつけた彼は、マリーにアメリカのティーン・エイジャー向けのコレクションと6235着の第1回の注文をして帰っていきました。

6235着・・・!マリーにとって気が遠くなるような数字でした。どう考えても今の裁縫能力では無理な話でした。そのための資金繰りや輸出業務・・・問題が多すぎました。思いあまったマリーは、イギリスからペニー社への輸出をすべて受け持っているペグナー氏に事情を話し、援助を依頼したのです。ペグナー氏は快く協力してくれました。彼の力は偉大でした。

でもマリーにはひとつ気がかりなことがありました。それはマリークヮントの名が大衆ストアの商品として定着していまい、ファッション界で創り上げようとしているイメージを落とすのではないかということでした。

しかし、とマリーは考えました。ファッション的なドレスこそ、誰でもが買えるべきだというのが私の信念だったはずだと・・・。

さて、ペニー社との仕事が順調に進みはじめた頃、ワシントンのイギリス大使館でこのコレクションのショーが開催されることになりました。大使館もイギリスのPRのために全面的に協力してくれるというのです。

ショーのために再びアメリカに向かったマリー。ところが、着陸20分前にとんでもない情報(マリーにとっては・・・)がもたらされました。空港にテレビ局やカメラマンが、大挙待機しているというのです。たぶん大使館やペニー社が手配したのでしょう。

マリーは青くなりました。化粧直しに化粧室に入ったものの、怖くてそこから出られなくなりました。飛行機はそのまま着陸。それでもマリーは化粧室から出ようとはしませんでした。やがて、待ちくたびれた取材陣がひとりふたりと怒って帰っていきました。誰もいなくなってはじめて、マリーはタラップを降りていきました。辛抱強く待っていたのは、ペニー社の社員ひとりでした。

彼がひどく腹を立てていることは、はっきりとその表情にも出ていました。

マリーは自分がしでかしたことの大きさにションボリ。明日からのショーが急に心配になってきました。

でも、そんな心配は無用でした。ショーは大成功。アメリカ中の新聞・雑誌に取り上げられ、マリーの服はペニー社の予想以上の大ヒットを記録したのです。

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