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EPISODE 29:渦から逃れて

1966年に発表したマリーの化粧品はまたたく間に世界中に拡がっていきました。(最も多い時には中国、今のロシアを除いた105ヶ国で販売されていました。)

夫であるアレキサンダーも化粧品業界の市場の大きさに驚きをかくせませんでした。

それから3年・・・化粧品業界だけでなく、ファッションの業界においてもマリーたちの事業は順調でした。むしろ、順調すぎると言ってイイほどでした。1969年には、「王室工業デザイナー」に選ばれ、ついに英国のファッション委員会からもファッションへの貢献が認められて「殿堂入り」を果たしたのです。何もかも、それまでの努力の結晶、幸運の延長のように思えたのですが・・・。

気がつくと、マリーは自分をもてあますようになっていました。若い人たちの「生きたシンボル」だった「おちゃめで不思議な女の子」、まわりの大人たちからどんなに白い目で見られても慣習をはねのけてきた「反逆児」・・・そんなマリーが億万長者になって、ステータスに飾られていく・・・。「私は私なのに」・・・いつしかマリーは、まわりの変化から置き去りにされたかのように感じはじめたのです。

それはマリーをとまどわせました。

今までならこんな時(例えば人生のプレッシャーを感じた時など)、突然、飛行機に乗って気の向くまま外国に出かけ、リフレッシュすれば、前にも増して元気ハツラツ仕事に戻れたのですが。今回ばかりは、どうも勝手が違っていました。完全なウツ状態・・・自分でもそう診断せざるを得ない状態でした。

家にこもって、庭いじりをしたり、料理をすることを好むようになったマリー。

「静かに暮らしたい」・・・それはマリーの切実な願いでした。アレキサンダーも心配になって、どうすることがマリーにとって1番なのか、考えに考えました。

そして・・・。

ブティックを閉鎖する決心をしたのです。マリーたちの事業は、この後、完全な海外ライセンスを主とした販売会社へと様相を変えていきました。

でも、実はこの時、すでにマリーのライフスタイルを一変させる大きな出来事が起こりつつあったのです。

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