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EPISODE 15:受賞のあとの苦難

パリでのはじめてのショーのためにデザインした「ウェット・ルック・コレクション」は、サンデータイムズ賞の授与式でも紹介され称賛を浴びました。

でもこのコレクションのためにマリーたちは大きな苦労を背負い込むハメになってしまいました。

ポリ・ビニールという革新的な素材を取り上げたまでは良かったのですが、マスプロ化する場合に、いろいろな問題点がある事実にマリーたちは気づいていませんでした。普通のミシンでは針が通らなかったり、ビニールとビニールがくっついてしまったり・・・。無理に縫い合わせると、ちょっとでも身体を動かすと、縫い目が裂けてしまうのです。新聞や雑誌に絶賛され、誰もが欲しがっているのに・・・ものすごい数の注文なのに・・・。でも、どうしようもありません。

マリーは夫のアレキサンダーとポリ・ビニールの縫製方法を求めて、ロンドン・パリ・ニューヨークとかけずり回りました。やっと完全な縫製ができるようになったのは、それから2年もあとのことでした。しかもその頃には、ヨーロッパやアメリカのデザイナーたちも、この合成素材の素晴らしい艶や鮮やかな色に惹かれて、次々とこの素材を使いはじめていました。

確かに新しい分野を開拓するパイオニアというのは、いつも散々苦労して、後からついてくる人のために土台をつくるものですが、マリーたちがこのために払った犠牲は決して少なくありませんでした。「ウェット・ルック・コレクション」が生産できないために、大きな損失を出してしまったのです。たまに、マリーのデザインが爆発的にあたることがあると、事態はやや好転するのですが、それもつかの間、入手しにくい生地でデザインしてまた仕入が遅れるといった失敗を重ねていました。

マリーたちは、華やかな受賞に興奮する一方で、事業の行き詰まりに対する心労と不安で緊張した日々を過ごしていました。気がつくと、マリーもアレキサンダーも精神的に追いつめられていました。友人たちの建設的な意見も受け入れることができなくなり、ささいなことで言い争って少しの間でも心配ごとを忘れようとしました。

そんな二人を救ってくれたのは、精神治療医の「自分がもっている能力の最善を尽くし、ベストを尽くした以上、もう気をもまない。」という言葉でした。

以来マリーたちはどんな不可能な事態が起こっても動揺せず受け入れることができるようになりました。

ある意味では、ベストを尽くした自分のことを認めることができるようになったのです。

こうして二人は精神的な危機をその寸前で乗り切ることができたのです。

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