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EPISODE 20:ピューリタン社での仕事

発表までの時間はもうわずかしか残っていませんでした。アメリカに着いた彼女らが、まっさきにしなければならないことは、40名以上もいるピューリタン社の部長連中にマリーの作品を見せることでした。

ピューリタン社では各部が事実上の独立した子会社になっていて、相互に相当な競争意識をもっているようでした。マリーがこの日のためにデザインした新作は、カットも縫製も、何ひとつクレームをつけられることはありませんでしたが、そのうち部長連中がエキサイトしてきました。誰がどの作品を担当するのか・・・。大混乱でした。

それがなんとか解決するやいなや、休むまもなく、コレクションのための生地選びがマリーを待っていました。そのためにマリーに重役会議室がオフィスとして与えられました。ここでもマリーはアメリカの企業の猛烈ぶりを目の当たりにしました。マリーが気に入った生地を注文すると10分もしないうちに欲しいだけの生地が届く・・・、微妙な違いを指摘したら2時間もあればマリーが思い描いた通りの生地を織ってくる・・・、これがイギリスだったら平気で何ヶ月も待たせるだろうにと、マリーはアメリカのやり方にすっかり感心してしまいました。

その反面・・・酷いこともありました。彼女に与えられた部屋には始終、誰かわからない人が出入りしていて、新作の服をラックから持っていってしまうこともたびたびでした。後になってそのうちの何人かはライバル会社の人だとわかりましたが、時すでに遅し。

マリーたちがまだニューヨークに滞在している間に、彼女の新作が他社から売り出されたのです。マリーにとってこれは強烈な事件でした。

ニューヨークでは、年に2回「ファッションマーケット週間」というのがあって、その間、アメリカ全土のファッション記者やバイヤーたちが集まってきます。メーカーはこのときとばかり、プロモーションパーティを開いて彼らの目をひくのにやっきになるのです。

マリーたちにとっても、ピューリタン社のパーティの初日が一番大切な日でした。数え切れないくらいの人たちが1日中出たり入ったりして、食事をしながらショーを見るのです。テーブルにはいつもありったけのごちそうが並んでいました。

マリーのショーは20分ごとに予定されていました。マリー独特のビートのきいたジャズとスピード感のあるショーは、アメリカではまだ新形式。たいそうな評判で、初日だけで3000人もの人が見に来てくれました。この初日を見届けて、マリーたちは10日間のアメリカ滞在を終えてロンドンに戻りました。

良くも悪くも気が狂いそうな10日間でしたが、その苦労の甲斐あって、それから一週間後、マリーたちは約50000着もの注文があったことを知らされたのです。

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